大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)4981号 判決
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〔判旨の要点〕訴外帝繊工業株式会社は、もと商号を昭和電着工業株式会社と称し、本店を大阪府布施市内に有し、被告がその代表取締役であつたが、昭和三三年七月一九日、その目的を変更したほか、商号を現在のものに変更するとともに、本店を大阪市西区内に移転し、かつ、代表取締役を被告から他に交替させて、その旨の登記を完了し、その後昭和三四年一月一〇日、ふたたび目的を変更するとともに、本店を大阪市東区内に移転し、さらに同年四月二二日、本店を大阪市北区内に移転し、右各事実につき登記を完了していた。
右訴外会社は、旧商号時代に、当時の本店所在地を住所とし、昭和電着工業株式会社代表取締役伊藤恭平(被告のこと)名義で、三井銀行大阪西支店と当座預金口座を開設していたが、その後右住所、商号、代表者氏名の変更届をすることなく、右口座をそのまま存続させていたところ、同会社の取締役である被告は、昭和三四年四月一〇日から同年七月一〇日の間に、支払場所を前記三井銀行大阪西支店とし、旧商号時代の本店所在地を振出人の住所として附記し、振出人を「昭和電着工業株式会社代表取締役伊藤恭平」とする本件約束手形計四通を振出した。
手形の記載事項の解釈は、手形面上の記載のみによつて判断すべきであつて、手形面上の記載以外の事実にもとづいて行為者の意思を推測して、記載事項の内容を変更したり、補充したりすることは許されない。もつとも、約束手形の振出人として表示された者が実在するかどうか、現実の何人であるか、ということは、手形以外の事実もとづいて判断することができるが、商号変更後の会社法人は、旧商号をもつて存在しているのではなく、新商号をもつて存在しているのであるから、本件手形に振出人として記載された法人の名称が前記訴外会社の旧商号であるからといつて、そのことから当然に同訴外会社を振出人として表示されたものと是認することはできない。本件では、訴外会社の旧商号と新商号の差異は軽微ではなく、表現形式においてまつたく相違し、その記載自体から両者の同一性を認識することができないし、商号変更後約束手形振出時まで約一年の期間を軽過しており、全国的に著名な会社法人ならば格別、右訴外会社のごとき会社法人にとつては、一般に旧商号をもつてしても公簿上新商号を称する会社法人を認識できるばあいにもあたらず、しかも、たまたま、前記のごとく、三井銀行大阪西支店における当座預金口座を存続させていた事実はあつても、本件約束手形振出当時、同訴外会社は新商号を呼称し、当時の代表取締役名義で他の銀行二支店に当座預金口座をも持つているのであり、旧商号を自己の商号として取引上慣用していた事実も存しない。
そうすると、原告(本件約束手形の所持人であり、うち一通は引渡の方法により、残り三通は裏書譲渡により、いずれも直接の振出交付先から取得した)と訴外会社との間で、手形面上の振出人として前記のような記載がなされていても実はそれが右訴外会社を指す旨たがいに認識されていたばあいならともかく、そのような事実関係を認めるべきなんらの証拠のない本件では、本件各約束手形の振出人となるものは、同訴外会社とは別人の、被告が代表資格を称した昭和電着工業株式会社なる法人というべきであつて、前記訴外会社に振出人としての責任を負担させることができない。
しかして、右振出人たる、昭和電着工業株式会社が本件約束手形振出当時実在しなかつたことが認められる。してみると、「各約束手形振出当時被告は実質的には訴外帝繊工業株式会社の代表権を有し、本件各約束手形をその代表取締役名義で振出す権限を有した」旨の被告主張について判断するまでもなく、被告は、実在しない法人の代表者として振出行為をした者として、手形法第七七条第二項、第八条前段の決意に従い、本件各約束手形につき振出人と同一の責任を負わなければならない。